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電力料金値上げの要因「燃料費調整額」の仕組み
一般的な電力料金は、電力量料金、燃料費調整額、再生エネルギー発電促進賦課金で構成されます。これは、自由化前の一般電気事業者(いわゆる大手電力会社)の料金体系を踏襲したものです。
規制料金は事前に経済産業大臣の認可を得る必要がありましたが、変動する燃料価格を都度反映するために認可を得ていては煩雑になります。そこで、燃料費調整額という項目を法定して、貿易統計の輸入燃料価格に連動して自動的に従量料金が調整される形をとっていました。
規制料金は、自由化以後も経過措置料金としてみなし小売電力事業者(いわゆる大手電力会社の小売部門)によって提供されており、経済産業大臣の認可を得る必要があります(競争が十分に進展した場合、経過措置料金は撤廃されます)。一方、自由料金は経済産業大臣の認可を得る必要がなく、燃料費調整額という項目を設けることなく自由に電力量料金を変動させることもできます。しかし、多くの小売電力事業者では規制料金との比較がしやすいように自由料金の中で燃料費調整額という項目を設けています(小売電力事業者における燃料費調整額は法定ではありません)。
燃料費調整額は次の通り算定されます。小売電力事業者の多くは、みなし小売電力事業者の算定式を流用して、あるいはみなし小売電力事業者が発表した燃料費調整単価を流用して、エリア毎に燃料費調整単価を定めています。
- 貿易統計から燃料毎(原油・LNG・石炭)の3か月分の輸入価格を抽出
※直近月は速報値、前月・前々月は確報値 - 燃料毎に輸入価格の3か月平均値を算定
- 各社毎に定められた燃料毎の係数を乗じて加重平均し、平均燃料価格を算定
- 平均燃料価格(平均燃料価格が上限価格を上回る場合には上限価格)と基準燃料価格(経過措置料金認可時の平均燃料価格)の差異を算定
- 上記の差異に「基準単価/1000」を乗じて燃料費調整単価を算定
- 燃料費調整単価に使用電力量を乗じて燃料費調整額を算定
このため、貿易統計が公表されれば、みなし小売電力事業者や小売電力事業者の発表を待つことなく、翌々月検針分の燃料費調整単価を知ることができます。本日6月29日に公表された5月貿易統計を例にすると、3~5月の輸入燃料価格によって8月検針分の燃料費調整単価を計算できることとなります。
貿易統計から見る電力料金の現状と先行き
2022年8月検針分の燃料費調整額
本日(2022年6月29日)、5月貿易統計(確速)の公表がありました。電力料金に関係してくる部分は、5月輸入9桁速報と4月輸入確報です。3月輸入確報は先月公表されています。公表された貿易統計に基づいて輸入燃料価格を燃料毎に算定したものが下記のグラフです。引き続き大きく上昇していることが確認できます。
この輸入燃料価格からエリア毎の燃料費調整単価を算定したものが下表です。昨年と比較してかなり大きな値上がりとなっています。
さらに金額がわかりやすいよう、400kWhの家庭を例として、どのくらい負担が増すのか計算したのが下表です。ちょっとした一人暮らしの電気代分くらいの金額が燃料費調整額だけで費やされてしまうほどの値上げとなっています。
今後の燃料費調整単価の見通し
燃料費調整単価は、貿易統計から算定すると説明しました。5月速報が6月公表されて8月検針分に反映されますので、燃料価格高騰の影響は遅れて燃料費調整単価に反映されることになります。
さらに、燃料費調整単価は、3か月平均の輸入燃料価格から算定すると説明しました。平均値をとることによって通常は短期的な変動を均すという利点があるのですが、足元の状況は継続的に輸入燃料価格が上昇しており、輸入燃料価格の上昇が燃料費調整単価に遅れて反映されるという効果を生じています。
つまり、燃料価格高騰の影響は二重に遅れて反映されます。下表は、貿易統計の輸入燃料価格が5月速報値から横ばいで推移した場合の10月検針分の燃料費調整単価・燃料費調整額(400kWhの場合)について試算したものです。未だ高値圏にある原油先物と円安を踏まえれば横ばいでの推移はやや楽観的かと思います。この楽観的な想定に立っても、電力料金の値上げは、少なくとも10月までは続くことが見込まれます。
この状況をグラフにしたものが下図です。経過措置料金やそれに準じて燃料費調整単価に上限を設けている自由料金の場合には既に上限に達しているエリアが多いですが、東京電力エリアもついに9月検針分から上限に達すると思われます。
なお、私の想定では、7月輸入燃料価格、6-8月平均燃料価格、11月燃料費調整単価がそれぞれピークとなり、冬場の燃料費調整単価はやや軟化することをメインシナリオに据えています。
こうした中、電気代を節約するためには節電のほか、①燃料費調整単価に上限を設けている事業者に変更する(特に東北・北陸・関西・中国・四国エリア)、②燃料費調整単価に上限がなくとも基本となる電力量料金がより安い事業者に変更する(特に東京・中部エリア)、の2通りがあります。
私は、事業継続性などを含めて多面的に検討を行った上でオクトパスエナジーの「グリーンオクトパス」に変更しました(東京電力エリアです)。その理由等については別記事「電力会社の料金改定・事業撤退~実質100%再エネ「グリーンオクトパス」(オクトパスエナジー)という選択」にまとめていますので、ご興味がありましたらご覧ください(記事中の紹介URLからのお申し込みで電力料金から5000円割引特典が適用されます)。
最新の燃料費調整単価(月次更新)
2022年9月検針分の燃料費調整単価・燃料費調整額(2022/7/28)
本日公表された6月貿易統計に基づいて、最新の情報を掲載します。
引き続き、7月輸入燃料価格(8/30公表予定)、6-8月平均燃料価格(9/29公表予定)、11月燃料費調整単価(9/29公表予定)がそれぞれピークとなり、冬場の燃料費調整単価はやや軟化するとの見立てを維持します。
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