「住宅ローンの繰り上げ返済せずにその資金で投資すべき」は間違い―投資的観点からの整理

家計管理
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住宅ローンについて、「住宅ローンの繰り上げ返済は行わずに、その資金で投資を行った方が有利」という声をよく聞きます。しかし、これは誤りです。この記事では、住宅ローンの繰り上げ返済について、投資的観点から考え方を整理したいと思います。なお、ここでは団信や手数料などは無視します。

Oleksandr PidvalnyiによるPixabayからの画像

住宅ローンの適用金利

住宅ローンは、居住用住居の購入に際して、その住居を担保として金融機関から資金を借り入れ、住居の購入資金に充当する商品です。金利変動型の住宅ローンの適用金利は、無リスク金利に対して、あなたの貸し倒れリスクを加味したリスクプレミアム等を付加して決定されます。

例えば、市場の無リスク金利が0.125%、住宅ローン(保証料上乗せ型)の適用金利が0.725%の場合、リスクプレミアム等は0.60%と考えられます。

参考:みずほ銀行「みずほ住宅ローン/みずほネット住宅ローンの保証料など

「住宅ローンの繰り上げ返済」の投資的意義

住宅ローンを繰り上げ返済するということは、金融機関があなたに対して保有している債権を買い取ることを意味します。つまり、繰り上げ返済することで、あなたがあなたに対する債権に投資することとなります。

ところで、金融機関はあなたに貸出を行うに際して、リスクプレミアムを付加していました。上述の例では0.60%です。これは、あなたに対する債権には貸し倒れリスクがあるため、そのリスクに見合った収益を要求することから設定されるものです。

しかし、あなたがあなたに対する債権に投資する際には、債券と債務が相殺されるため、貸し倒れリスクは無視できます。

したがって、住宅ローンの繰り上げ返済は、無リスク資産に対する投資に対して無リスク金利を大きく超過する収益を得ることができる投資先となります。上述の例では、無リスク金利0.125%に対して、0.725%と実に6倍近い収益を得ることができます。

住宅ローンの繰り上げ返済は行わずに、その資金で投資を行った方が有利?

「住宅ローンの繰り上げ返済は行わずに、その資金で投資を行った方が有利」などという声をよく耳にします。例えば、住宅ローンの適用金利が0.725%、証券投資の期待リターンが5%とすると、0.725%を借りて5%のリターンが期待できるのですから、正味4.275%のリターンが期待できます。これを受けて、「有利」だと錯覚しているようです。

基礎的な理論で説明をすると、証券投資の期待リターンは「無リスク金利+リスクプレミアム」に分解できます。したがって、期待リターン5%の中身は、無リスク金利0.125%と証券投資のリスクに見合っていると市場が判断しているリスクプレミアム4.875%です。リスクプレミアム4.875%はリスクを負うことへの対価です。

ここで、無リスク金利0.125%を上回る0.725%で借り入れて証券投資しても、4.775%を下回る4.275%しか得られず、リスクに対する十分な対価を確保できていません。

一方、住宅ローンの繰り上げ返済は、前述したように、市場の無リスク金利0.125%に対して、無リスクで0.725%の収益という市場評価を大きく上回る収益を得られるのですから、多くの方にとっては極めて有用な投資先となります。

最後は人それぞれ

この記事では、住宅ローンの繰り上げ返済が多くの方にとって有用な投資先であることを簡単に説明しました。ただし、これは市場の平均的な期待リターンに沿った説明であり、リスク選考度が高い(リスク回避度が低い)方々にはあてはあらないこともあります。

例えば、「証券投資にリスクを全く感じないのでリスクプレミアムは0%(期待リターン0.125%=無リスク金利0.125%+リスクプレミアム0%)で良い」と考える方にとっては、無リスクの住宅ローンの繰り上げ返済の期待リターン0.725%より無リスクと感じる証券投資の(市場の)期待リターン5%の方がはるかにリスクプレミアムが高い(0.60%vs4.875%)ですから、リスク対比で証券投資の方が有用な投資先となります。

ただし、この場合でも、市場金利を大きく上回る金利で借りて投資するよりは、市場金利に応じて金利コストを負担する投資方法のほうが有用です。

例えば、株価指数先物取引では、市場実勢並みの金利コストが内包されています。また、株価指数を原資産としたCFDでは、金利相当額として市場実勢並みの金利の受渡が行われます。投機ではありますが、FXでも金利スワップとして市場実勢並みの金利の受渡が行われます。

こうした商品・サービスを用いれば、住宅ローンを一種の借り入れ手段として用いるよりもはるかに有利な取引ができるでしょう。

なお、FXとCFDの取扱いが豊富な証券会社としては、DMM.com証券などがあります。

別記事「投資と投機の違い―資金を投じる際に焦点をあてているものの違いによる本質的な分類」では、投資と投機の違いを簡単に説明しています。

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