仕組債販売は暴利を貪っているのか?―商品企画から見た仕組債販売を取り巻く環境

投資
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仕組債発行の概要

仕組債は、基本的には投資家がオプションを売り、発行体がオプションを買う内容となっています。債券にしては高い利率は、投資家が売ったオプションのオプション料金が反映されています。

仕組債の売出しは、次の4者が関わっています。
・発行者…仕組債を発行して資金調達する主体
・アレンジャー…発行者の資金調達をサポートする主体
・販売会社…投資家に仕組債を販売する証券会社
・投資家…仕組債を購入する主体

仕組債の売出しは、大きく分けて、次の2つの段階を経ます。

①発行者が仕組債を発行し、販売会社が仕組債を買う
発行者は、資金調達を目的として債券を発行します。販売会社は、発行された仕組債を発行者から買い取り、在庫とします。アレンジャーは、発行者から資金調達に係る手数料を受領するとともに、発行者からオプションを買い取ります(発行者は、投資家の需要に応じて資金調達手段として仕組債を発行しているだけであり、オプションが欲しいわけではありません)。

②販売会社が投資家に販売する
販売会社は、在庫としている仕組債を一定の申込期間を設けて投資家に販売します。

販売会社の利益

販売会社の利益は、発行者から買い付けた発行価格と投資家に販売する売出価格の差額となります。例えば、発行価格98円・売出価格100円とした場合、2円の利益を得ることができます。

販売会社が得るこの利益は手数料ではなくトレーディング損益です。販売会社は、価格変動リスクや売れ残りリスクを負いながら仕組債を在庫として抱えて、投資家に販売しています(利率決定=オプション料固定後にボラティリティが上昇した場合、仕組債の価格は低下します)。したがって、販売会社は当然ながら、取引所に注文をつなぐだけの株式の売買手数料よりも保有リスクに応じた大きい利益を求めます

仕組債の売出しにおける鞘抜きの問題点

仕組債の売出しにおける販売会社の鞘抜きの問題点としては次の2点があります。

オプション部分だけを取り出してみると、買い手であるアレンジャーはオプションを安く買いたい、売り手である投資家は高く売りたい、というニーズがあり、販売会社はその間を取り持った上で鞘を抜いています。例えば、投資家が80で売ってアレンジャーが100で買うと、販売会社は20の利益を得ることができます。

どれだけ鞘をとって良いかという点については一律の基準はなく、各社において基準が定められていますが、専門性を持った人材を抱えている証券会社はかなり少ないため、その基準自体が理にかなっていないことが多いと思われます。これが1つ目の問題点です。

そして、各社の基準にそれなりの合理性があると仮定して、ある程度適正な条件が設定された場合でも、適正さを欠く商品群があります。「早期償還条項」付の仕組債です。

投資家はオプションの売り手として仕組債の「利払い」をオプション料として受け取っています。「早期償還条項」は、オプションの価値が小さくなった場合に買い手が売り手に対してオプションの買取請求権を行使するという性質のものです。売り手は、以後に支払われるはずであったオプション料を受け取れなくなります。もちろん、売り手がそうしたリスクを負うため、オプション料は「早期償還条項」がない場合と比べて高く設定されています。

これがアレンジャーと投資家の相対の関係であれば、大きな問題は生じません。しかし、仕組債の売出しの時点で証券会社が一定額のオプション料を抜いていますので、早期償還が発生した場合には販売会社と投資家との間の配分比率が狂ってきます。

投資家が80で売り、アレンジャーが100で買い、販売会社が20の鞘を抜いた場合を考えてみましょう。オプション料の取り分は、投資家:販売会社=4:1です。この仕組債が年限1年、3か月毎に利払いがあり、3か月毎に早期償還条項の適否の判定を行うものとしましょう。初回(仕組債発行から3か月後)に早期償還されたとすると、投資家が受け取ったオプション料は80÷(3/12)=20です。すると、オプション料の取り分は、投資家:販売会社=1:1となってしまします。早期償還となると販売会社のオプション料の配分比率が大きく増してしまします。これが2つ目の問題点です。

仕組債に対する私の考え

上記のような問題点はありつつも、私は仕組債に対して肯定的に見ています。世界中のあらゆるリスクというリスクをオプション料に変える形で投資機会を得ることができる有用なツールだと考えています。指数のバニラオプションを内包するような仕組債は市場でオプション取引するほうが合理的でしょうが、そうした市場性を十分に持たないリスク(日本では個別株オプション市場でさえ、約定どころか気配値すらほとんど提示されていない状況です)であっても投資機会に変えることができます。私が仕組債に投資するか否かといえば、都度、その仕組債を検討して是々非々で判断するでしょう。

余談

ある販売会社で営業員はみな、EB債の早期償還を喜んでいました。私はその光景を見て、早期償還となれば資金を回転させてさらに手数料を稼げる機会ができるから喜んでいるのかと思ったのですが、違いました。純粋に株式償還とならなかったことを喜んでいたのです。営業部門の本部長・部長陣も商品部門の本部長・部長も同様の理由で喜んでいました。そして、顧客に「やりました!早期償還になりました!」などと電話し、顧客までもが早期償還を喜んでいるという状況でした。

早期償還はオプション料の減額を意味しますし、早期償還となるような環境は株式償還の可能性が低下したことを意味します。その中での早期償還(オプション買取請求権の行使)は、販売会社とのオプション料の配分比率の件も踏まえれば、オプションを売っていた投資家にとっては十分なオプション料を得ることができなかったという敗戦です。投資家にとって「勝ち」という状況は満期の金銭償還であり、株式償還は「大負け」、早期償還は「負け」です。その「負け」を喜ぶという異様な光景、顧客のみならず販売会社のほぼ全員がEB債を理解していない状況に恐ろしさを覚えたものです。

追記

金融庁ホームページに2022年6月30日付で「投資信託等の販売会社による顧客本位の業務運営のモニタリング結果について」との文書が掲載されましたので、あわせてお読みになることをお勧めします。

別記事「レバナス詳解―その特色を徹底的に分析し、長期保有における考え方を問う」では、仕組債と並んでプロから問題点の指摘が多いレバナスについて取り扱っています。

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