今回は、投資信託と仕組債のコストに関する情報開示の違いについて説明します。
投資信託は、購入時手数料、信託財産留保額、運用管理費用(信託報酬)の総額と委託会社・販売会社・受託会社別の内訳、その他の費用・手数料が開示されます。一方、仕組債は、「アレンジャーや証券会社の取り分が開示されておらず、ブラックボックスだ」などという声をよく見かけます。
この投資信託と仕組債のコストに関する情報開示の違いがどこから来るかと言えば、投資家の投資判断に影響を及ぼすか否かという点に尽きます。
投資信託では、まずファンドの目的が投資判断の材料となります。例えば、「eMAXIS SLIM 全米株式インデックス・ファンド」では、「S&P500指数(配当込み、円換算ベース)の値動きに連動する投資成果をめざします。」となっています。しかし、ファンドの目的が達成されたとして、それが直接、投資家の投資成果となるわけではありません。ファンドの運用コストは投資家の負担であり、投資信託はそれらのコストを明示しなければ投資家が投資判断を行うにあたっての投資成果の想定を置くことができません。このため、詳細な開示が義務付けられています。
一方、仕組債では、売出要項などに記載される仕組債の条件はアレンジャーや証券会社の取り分を反映した後の内容ですので、仕組債の条件のみで投資成果の想定を置くことができます。また、例えば、EB債が株式償還となってその株式の調達や受渡しにコストが発生してもそのコストはアレンジャーや証券会社が負担するものであり、投資家の投資成果に影響を及ぼしません。仕組債は、無事に条件通りに償還されたとすると、それが直接、投資家の投資成果となります。したがって、仕組債における組成コスト等は投資判断に影響を及ぼすものではないため、開示が義務付けられていません。
よりざっくり言ってしまえば、仕組債は借金の契約なのでお金さえ決めた通りに戻ってくれば問題ないのですが、投資信託は投資家の財産の運用を任せる契約なので依頼主である投資家に対してその財産がどのように運用されどのようなコストを差し引くのか明示しなければならないのです。
このように、投資信託と仕組債はそれぞれの商品特性に応じて、投資家の投資判断に資する必要十分な内容となるよう、情報開示制度が適切に運用されています。
なお、仕組債に関しては「ブラックボックスの中で証券会社が暴利を貪っている」という声も多いようですので、次回はこの点について考えてみたいと思います。→別記事「仕組債販売は暴利を貪っているのか?―商品企画から見た仕組債販売を取り巻く環境」
【追記】
金融庁ホームページに2022年6月30日付で「投資信託等の販売会社による顧客本位の業務運営のモニタリング結果について」との文書が掲載されましたので、あわせてお読みになることをお勧めします。
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