日米首脳会談後の記者会見:石破首相の「仮定の質問 theoretical question」への笑いの理由

政治
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日米首脳会談後の記者会見において石破首相の発言が会場の笑いを誘いました。私は、会見全体を視聴したわけではなく、またネイティブでも英語が得意なわけでもないので、間違っているかもしれませんが、会見の該当部分の状況について私なりの解釈をしてみたいと思います。

※この記事は、追記・修正する予定です

https://x.com/whitehouse/status/1887954960345702724

記者会見の状況の整理

日米首脳会談後の共同記者会見で最後に質問に立った記者は、当初トランプ大統領に対し、会談とは無関係な話題を繰り返して追求していた。トランプ大統領は一通り答えた後、「首相に質問はありませんか?」と促し、そこで石破首相への質問が投げかけられた。

記者の問いは、「トランプ大統領が関税政策に親近感を持っているのはよく知られていますが、もし米国が日本からの輸入品に関税を課した場合、日本は報復しますか?」というものであり、トランプ大統領の関税政策を批判する材料を得る意図があるようであった。

石破首相は「仮定の質問にはお答えいたしかねます、というのが日本のだいたい定番の国会答弁でございます」と返答。通訳はこれを “I am unable to respond to a theoretical question. That’s the official answer that we have.” と訳した。

この英訳に対し、記者席から笑いが起こり、トランプ大統領も “That’s a very good answer. He knows what he’s doing.” と評価。そのまま会見は締めくくられ、石破首相との握手は交わされることなく終了した。

一連のやり取りに込められた意味

この一連のやり取りには、いくつもの意味が込められていた。

まず、”theoretical question”という訳語は、「仮定の質問」という表現を単に直訳するのではなく、質問そのものを「現実性のないもの」と位置づけるニュアンスを含んでいた。これは、追加関税の可能性が議論に値しないというメッセージを、英語圏の記者に明確に伝える効果を持った。さらに、”That’s the official answer”と強調することで、日本政府の確立された公式見解であり、議論の余地がないことを示した。結果、前のめりな記者の質問それ自体を二言だけで一笑に付して、可能性の程度に対する認識など、予想される追及をかわすかたちとなった。

また、この記者会見が交渉の場となった点も重要である。米国はすでにカナダ・メキシコに対して追加関税をほぼ発動寸前まで進め、中国に至っては実際に関税を課していた。こうした中で日本だけが「関税の可能性を議論することすら無意味だ」と表明することで、そのキャップに対する笑いや記者にカウンターを食らわせたことに対する笑いを誘うとともに、日米関係の特別さを強調する狙いがあったと考えられる。さらに、公式見解と強調することで、これらの点についてのアメリカの公式見解をトランプ大統領に投げかけた形だ。

一方、トランプ大統領が石破首相の回答を称賛したことも意味を持つ。彼は、石破首相が追求型の記者にカウンターを食らわせたことに「素晴らしい答えだ」と持ち上げることで質問がそれ以上掘り下げられることを避け、日米関係の強固さの度合いや追加関税の可能性の程度などに関する米国としての公式な立場を明言せずに終える形となった。仮に「追加関税は現実的ではない」などと発言すれば交渉カードを失い、逆にある程度大きな可能性を残せば日本との関係に不必要な緊張を生む。その点で、石破首相の回答を利用し、場を和ませて、巧みに質疑応答を終息させたと考えられる。

さらに、握手を交わさなかったこともこの文脈の中で意味を持つ。もし握手をすれば、「追加関税の可能性は理論上あるが、実際には限りなく低い」という日本の立場を米国が認めたと解釈されかねなかった。それを避けるために、トランプ大統領は敢えて握手をせず、立ち去る選択をしたのだろう。

つまり、この記者会見のやり取りは、単なる質疑応答ではなく、記者の質問に乗じて外交の場と化したものであった。石破首相は、日本にとって不要な争点化を防ぎつつ、日米関係の特別さを印象付けた。トランプ大統領も、石破首相の回答を利用することで、米国の公式見解を問われることなく関税カードを温存して会見を終えた。この一連の流れが、英訳の巧妙な表現によって成立した点も見逃せない。

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